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「Hazel amd Gray」
虹色の笛の音は

08 ラストパレード

 ←07 裏取引 →09 終わりの始まり

 楽しい楽しいパレードのお出ましだ
 足並みそろえて 拍子をとって
 みんな笑顔で 行進しよう

 掛け声合わせて
 いち、に、いち、に
 楽しい楽しいパレードのお通りだ

 さぁさ元気に勇ましく
 よい子もわるい子も泣き虫も
 みんな集まれ パレードに

 進めや進め パレードと
 いちにのさんで突撃だ


 鳴り響く甲高いピッコロの音色。
 子どもたちの歓声と、紡がれる歌。

「さて、パレード参加者の諸君。今宵も愉快で滑稽なる行進を始めようではないか! 心の準備はよろしいかね?」

 と言っても、答えは既に決まっているようなものだが。
 そう続けた彼は、再びピッコロに息を吹き込む。
 スタッカートをきかせて軽快に。どこまでも聞こえるようにたからかに。小さな体で一生懸命ついてくる彼らを置いていかないよう、ゆっくりと進む。

 哀れな少女のために、報われなかった恋に、過ちを犯してしまった蒼の小さな姫君のために。
 彼女を癒すための国を作って差し上げよう。
 その心を癒すための住人は純粋な方がいい。そして、同じ種族ではない方がいい。
 彼女のために笛を奏でて、彼女のために潜伏していたこの国から消えてしまおう。


 ―…全ては、彼女のために。


 ちらほらと、笛の音に誘われるかのように、子どもたちがまた新たにパレードに加わる。
 楽しそうに、嬉しそうに。
 悲観ぶって顔に影を落とすものはどこにもいない。
 パレードは楽しくなくては。純粋な心に影を落としてはいけない。どこまでも楽しいものとキラキラと輝くもので埋め尽くしてしまわないと。

 彼女の心まで晴れるはずがない。
 彼女のための理想の国。彼女のために建国する国。
 この世界のどこにあるでもない場所に、彼女が中心となる国を創り出そう。
 人の身勝手に振り回されるのはもうごめんだ。
 ならば、今度は。
 私の至極個人的な事情に振り回して差し上げよう。

 笛に息を吹き込む。流れるようなメロディ。
 軽快な音。笑い声。くるくると世界を回して、様々な虹彩を放たせて。
 色をつけ、混ぜてやらなければ。キラキラと輝くように。
 黒く染めてしまわないように、色とりどりに鮮やかな光を放つように。

「カラバ公爵!」

 誰かが名前を呼んだ。
 この国にいる間の仮の名前。名前など意味を持たないものではあるが、呼ばれたのならば振り返らなくてはならない。
 仕方なしに視線だけで振り返った。
 そこには琥珀色の瞳をもつ猫と、様々な色に虹彩を変え光を放つ淡褐色の瞳を持った青年がいた。

「グレイを返して」

 くるりと淡い色を揺らめかせるその瞳は、まるで陽炎を閉じ込めたようで、惹かれる。
 だが、彼からは二人の魔女の気配がする。だから手を出さない。
 一人くらいならば気にも留めないが、二人となると少々面倒だ。

「グレイを返せって言ってるんだ! おい、聞いてんのかよっ!」
「待てゼル!」

 関わらない方がいいと思い、聞き流して先へと進もうとした。
 だが、それに怒った彼はずかずかと詰め寄ってくる。
 閣下の静止の声も聞こえていないのだろうか? なんとも無粋な青年だ。

「ねぇ、お兄さんはどうして怒っているの?」

 ふと、参加者の一人が彼を見上げて問いかけた。

「このパレードは、楽しいものしかないのに、どうしてお兄さんは怒っているの?」
「そうだよ、お兄さんおかしいよ。このパレードに参加すれば、寂しくて辛くて悲しい毎日なんか、過ごさなくてもよくなるんだよ?」
「ねぇ、どうして?」
「お兄さん、どうして?」

 そう、このパレードの参加者は、皆純粋な心に戻した子どもたちだけ。
 無粋な彼の存在は、異なるものとして扱われるであろう。
 笛の音色は絶えず流し続ける。こうしている間にも、一人でも多くの参加者を増やさなければならないのだから。

「僕の大切な妹がいなくなったんだ。僕に何の一言も言わないでいなくなっちゃうなんてありえないんだ。だから全然、楽しくなんかない」
「……本当に、そのこと以外に目的はないのだな」
「当然だよ。全世界探したって他にはいない、僕の可愛い可愛い唯一の妹だよ? グレイを一番にするのは当たり前じゃないか!」
「そうだなゼルにとってはな」

 その主張も聞き飽きた、とでも言うかのように棒読みで返した閣下の様子からして、本当に本音なのだろう。青年はだからと見据えてくる。

「だから、グレイを返して。僕の大切な妹を、連れて行かないで」

 ゆらゆらと光を揺らめかせる瞳で、まっすぐに見上げた。
 あぁ、楽しみのパレードが、悲しみの色に染まってしまう。
 参加者たちの胸に、悲しみの波紋が広がって行く。
 思い出してしまう、忘れたいと願った過去を。肉親を……頼るべき相手をなくしてしまったときの感触を。
 何も感じなくなってしまったときのことを。

「返して、あげてよ」

 ぽつりと、誰かが呟いた。

「ねぇ、返してあげてよ。お兄さんに、妹さんを」
「だってそうじゃないと、お兄さん一人になっちゃうよ」
「たった、一人ぼっちになっちゃうよ」
「僕らと同じになっちゃう」
「悲しいのは、苦しいのは私たちだけでいいよ。だから、ねぇ。返してあげて」
「一緒にいたいんだよね、お兄さん。僕たちだって、一緒にいたかったもの」
「だから、一緒にいさせてあげてよ」
「私たちの代わりに、ねぇ、駄目かな?」

 悲しみの波紋はいつしか、青年を思う気持ちへと代わり、誰もが同調している。
 自分たちと、同じ思いはさせたくない、と。
 ぼろぼろの体で、大きな瞳で見上げ、願う。

 ほら、誰もが私利私欲にまみれた大人とは違う。
 大人にもあるが、子どもは特にそうだ。時に残酷だが、感受性が強い。
 他人のために一緒になって祈ることなど、願うことなど。
 だから、嫌いになれないのだが。人間と言う存在を。

「……よろしい」

 彼らに免じて、彼女を参加者から外して差し上げよう。
 カラバがパレードの曲を途切れさせ、再び笛に息を吹き込み始めた。ゆっくりと、音を重ね、高く高く冬の乾ききった空へと消えていくように。
 やがて音に反応するかのように、くるくると光が虹の螺旋を描き始めた。その中に、現れる一つ影。
 ゼルとよく似た面立ちで、ダークブラウンの髪をゆるく肩に流している少女が、ゆっくりと光の中に現れた。
 深い黒の夜空に、光がキラキラと輝いて現れるその様子はどこか幻想的で、感嘆の声が子どもたちの間から漏れていた。
 自分を囲むように様々な色に輝く光を、不思議そうに眺めていた少女は、ふと目の前にいるゼルとアンバーに気付く。

「ゼル? それに、アンバーも」

 どうしてここにいるのかとでも言いたい様子のグレイだったが、それを言うよりも先にゼルがグレイに飛びついた。

「グーレーイー!」
「煩いわよ馬鹿ゼル」
「グレイが無事で本当によかったよおおっ! お兄ちゃんすっごく心配したんだからなっ! すっごくすっごおおおおく心配したんだからなっ!」
「はいはい。ごめんなさい、アンバーあとで事情を教えてもらえる?」
「う、うむ……。それよりゼルが」
「無事に見つかって、本当に無事でよかったよぉ! もうお兄ちゃんに黙って勝手に行っちゃだめだからなっ! 家出だって二人で一緒にしたのに、酷いじゃないか! もうっ、今度からグレイがいなくなっても地の果てまで追っかけるからなっ! 絶対の絶対に追いかけちゃうんだからなっ!!」
「ゼル、ゼル。それ関係ないでしょ」

 予想を裏切らないで飛び込み、抱きついてきたゼルに、グレイは至極冷静に対応した。
 生まれてからの付き合いである。扱いには慣れているのだろう。
 そんな様子をどこか羨ましそうに、哀しそうに見ていた子どもたちを見て、カラバ公爵は再び笛を構えた。

「……では、我が国へと誘われる新国民よ! 君たちに慰留の想いがないならば、早々に我らが国へと向かおうではないか!」
「っ、おいカラバ!」
「あぁ、閣下。お間違えなく。私の名前はそれではないのですよ」

 ピルル、と軽快な音を奏でる彼の元に、子どもたちは集う。

「私は偉大なる悪魔・ロットバルド! カラバ公爵とは仮の名前であり、嘘の姿! そしてこれよりは、楽園へと誘うただの案内人に過ぎないのだ!」
「そうだ! 早く行こう!」
「幸せだけが待つ場所に!」
「僕らが幸せになれるところへ!」

 彼がゆっくりと向きを変えると、子どもたちもそれに習う。そして、彼が少し大げさに足踏みを始めると、子どもたちは皆元気よく駆け出した。

「行くも行かぬも自由だが、残念な事に最後のパレードは既に始まっているのだよ!」
「っ、待」
「ダメだよ、グレイ」

 追いかけようとしたグレイを、やんわりとゼルは止めた。

「どうしてっ?」
「だって、止めたとしてもあの子たちは幸せになれない。同じ事は繰り返したくないんだったら、止めない方がいい」
「でも!」
「それじゃ、あれを止めたらグレイは、今すぐにあの子たちを幸せに出来るの? 普通の生活を保障してあげられるの?」

 未来のことを考えて、今をとめるか。
 それとも、未来に繋げるために今を見送るか。
 理想論では語ることは出来ないこの状況を、グレイはぐっと拳を硬く握り締めて、必死に耐えた。
 姿を小さくしていく彼らの歌声が聞こえる。


 楽しい楽しいパレードのお出ましだ
 足並みそろえて 拍子をとって
 みんな笑顔で 行進しよう

 掛け声合わせて
 いち、に、いち、に
 楽しい楽しいパレードのお通りだ

 さぁさ元気に勇ましく
 よい子もわるい子も泣き虫も
 みんな集まれ パレードに

 進めや進め パレードと
 いちにのさんで突撃だ


 何度も何度も歌われるそれも、徐々に小さくなってゆく。
 その中で、ふと、耳にハッキリと残る言葉が聞こえた。

「灰色と淡褐色の兄妹に、私から一つ贈物を捧げよう。何、遠慮はいらない。快く受け取ってくれたまえ!」

 言葉が聞こえたかと思えば、グレイの周りに漂っていたに残された光がぼんやりと輝出した。そしてそれは宙を移動し、威嚇するアンバーを取り囲む。
 七色の光がぎゅっと凝縮するかのようにアンバーへと迫ると、爽やかな林檎の香りと共に、透明な雫が弾けとんだ。

「アンバー!?」
「っ、これは……!」

 一瞬の後、そこにいたのは見慣れた小さな猫ではなく、赤銅色の髪をした一人の男だった。

「え、誰?」
「元の姿に、戻ったの?」
「……みたいだな」

 不思議そうに己の姿を見下ろすアンバーを、これまた不思議そうに見上げる兄妹。彼等の耳に、微かに声が聞こえてくる。

「立ち向かうための、ほんのささやかな手助けにすぎないが。まぁ、せいぜい頑張りたまえ」

 それが何を指しての言葉なのかは分からないが、それぞれに思い当たることがあるらしい三人は押し黙ってしまった。
 冷たい冬の風が通り過ぎてゆく。
 寒さに身を震わせたその時には、笛の音も、パレードも、跡形もなく消え去っていた後だった。
今度こそ、本当に。

 その後二度とパレードは現れなかったと言う。
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