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「Hazel amd Gray」
親愛なる蒼姫へ

01 一目惚れ

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 あたしは、あなたに恋をしました。
 いわゆる一目惚れってやつ。水面に顔を出したあたしは、あなたが乗っていた船を見つけたの。その時。
 物憂げに海を見つめるあなたの横顔に、あたしは身体中に電流が走りぬけたような気になったわ。電気クラゲのあれなんか、目じゃないくらいに。

 だからあたしは、陸まで貴方を追い掛けた。
 お父さまに謹慎を言い渡されて、お姉さまたちには必死で止められたけど。それでも、いそぎんちゃくを探すカクレクマノミのように、あたしは貴方を追わずにはいられないの。
 優雅に揺れるヒレじゃなくて、細い二本の棒切れのような足。そんな貧相なものを手に入れてどうするのって、お姉さまたちには嘆かれたけど。

 でもいいの。あたしは貴方を追い掛けたいの。
 だから魔女に歌を渡すことくらい平気。あたしには歌(魔法)なんかなくったって、きっと貴方を見つけてみせる。ううん、見つかるはずなの。
 だって、あたしと貴方は運命の相手。運命の女神が導いてくれるはずなんだから。

 だけど、どうして……?

 あたしと貴方は確かに引き合わせられたのに、こんなにもすれ違ってばかりなんて。あたしは貴方の隣に立ちたくて、慣れない二足歩行も、小難しい人間のしきたりも全て覚えたのに。
 なのに貴方は、あたしじゃない誰かを隣に立たせた。
 北の国の、とても綺麗な王女さま。あたしよりも白い肌に、真っ黒い艶やかな髪。唇は血のように赤くて、背筋が凍るような笑みを浮かべているの。羨ましいくらい美しくて、悔しいくらいお似合いだった。あたしなんかが隣にいるよりも、あなたはずっと幸せそうに微笑んでいて……。
 あたしは身を退くべきだと、そう感じたわ。

『王子と結ばれなければ、魔法の代償として、あんたは泡になって消えるわよ』

 紫色の魔女の言葉を忘れたわけじゃないわ。
 あたしだって、本当は泡になって消えたいなんて思ってなんかない。ないけど、あなたが幸せそうな笑顔を浮かべているだけで、あたしまで幸せな気持ちになれるんだもの。
 だったら、馴れ親しんだ故郷の海の一部となって、あなたのことを見守っていようと、そう思うようになれたの。あなたの隣に立っているのが、あたしじゃない。それだけが、苦しくて仕方がないけれど。

『魔女と取り引きして手に入れた短剣。これで王子の胸を刺しなさい』
『そうすれば、あなたは泡にならずにすむわ。また海に帰ってこれるの!』

 髪を短くされたお姉さまたちの言葉に、心が揺れなかったかって言ったら嘘になるわ。あのどこまでも続いているような、懐かしい海の中を自由に泳げる。この頼りない二本足の人間なんかじゃなくて、優雅な鱗とヒレで自由に水の中を突き進める人魚に戻れるんだもの。一度は、短剣を握り締めた。

 でもあたしにはできない。

 大好きなあなたの胸を刺すだなんて。
 愛してしまったあなたの心臓を止めてしまうだなんて。
 そんなことをしたら、もう二度とあなたの笑顔を見ることが出来なくなる。二度とあなたに会えなくなってしまう。そんなこと、できるはずないじゃない。
 ……なのにどうして?

 捨てたはずの短剣が、あなたの胸に突き刺さっているの?



親愛なる蒼姫へ
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