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「Hazel amd Gray」
親愛なる蒼姫へ

02 一通目

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 親愛なる蒼姫へ

 数々の非礼を、先ずお詫び申し上げさせて頂けないだろうか。これはきっと、貴女の本意ではないはず。それが分かっている上で、私は貴女の代わりを果たしたのだから。
 貴女が私を非難するのならば、幾重もの言葉を折り合わせても足りないように思うだろう。それで構わない。
 貴女が泡となって消えぬと言うのならば、私は甘んじてそれを受け入れよう。
 嗚呼、強いて贅沢を言うのならば、罵声よりも甘い囁きを貴女の声でお聞き願えたらと、そう思わずにはいられないのだけれど。まぁ、囁きに関しては、貴女よりも私の方が得意なのは否定できないだろうが。
 我が愛しき蒼の姫。人在らざる海の末姫よ。
 翼なきその身で、我がもとから逃げてくれるな。
 空飛べぬ者ならば、忽然と姿を消すことはないのだろう。
 嗚呼、我が愛しき蒼の姫。臆病な私を笑っておくれ。
 貴女が消えてしまわないか、恐ろしくて仕方がないのだ。
 だからどうか、今しばらくは―…

 この臆病者のもとにいておくれ。


 ふと、目がさめた。
 ぼんやりとした視界に入り込んでくる光。それから、清々しい風。

 人間になって初めて知った、朝を迎えるということ。
 小鳥と言う空を泳ぐように飛ぶ生き物が、チチチとさえずる音が聞こえて、それから、朝日が窓から射し込むの。
 不思議よね。天井が空を遮ってしまっているから、そこからしか日が射してこないのよ。
 キラキラと光のカーテンが揺れる海中とは大違い。
 そんな狭い空間に押し込められるなんて、窮屈じゃない? なんてお姉さまに言われそうだけど。
 それでも、窓から外を仰ぎ見るとどこまでも広がっている、抜けるような青空が広がっているのよ。この小さな窓が、まるで絵画の額縁に見えるくらい。

 素敵だと思わない?
 海の中では決して分からないことだわ。毎朝少しずつ色や音が変わる景色を眺めることが出来るなんて!
 ゆっくりと起き上がって、目一杯伸びをした。
 それから、そっとベッドから足を下ろして、立つ。
 頼りない日本の足に力を込めて、あたしを支えるの。あたしって、こんなに重かったかしら? なんて、始めは立つことですら出来なかったけど。

 今は、ほら。見て!
 あたしも人間と同じように歩けるの!
 あたしの大好きな方と同じように大地に立って、歩けるの。歩けるのよ!
 人間と同じように、ひらひらとした服を着て。
 人間と同じように、ナイフとフォークを持って食事をして。
 それから、部屋の中を歩き回ったりして。
 そう、今のあたしは人間と全く同じ。ううん、今は人間なの!
 ヒレを持った人魚じゃなくて、二本足の人間!
 あの人と、あたしが恋をしたあの人と同じ人間なのよ!

「……か…、……いか…」

 あら? 部屋の外で誰かが叫んでいるような声がする。何かあったの、こんな朝早くから。
 そろっと、足を前に進める。片足ずつ、慎重に、慎重に。

「……誰…!誰か……いか!」

 誰かを探しているの?
 誰を? そもそも、誰かを探しているあなたは誰?

「誰かいないのかっ! 誰でもいい、返事をしてくれ!」

 待って。これは聞き覚えがある声。
 ちょっと焦ったように怒鳴り付けるこの声は……そう、あたしの大好きな人の傍でよく聞いていた。
 あの人の従者の一人よ。確か、彼の名前は……。

「……ジーク……?」
「っ!? 姫、ご無事でしたか……!」

 扉の影からそっと覗き見たあたしとジークの目があった瞬間、彼は転がるようにして駆け付けてきた。
 そのどこか必死な様子に、ぎょっとしちゃったのは否めないけど。

「姫、殿下のっ、殿下のご容態はっ!」
「シャーロックの……?」

 ゴヨウダイ。
 シャーロックのゴヨウダイは?
 頭がゴヨウダイの意味を理解したくなくて、その言葉を口にしたくなかった。

「姫もその場にいらしたでしょう!? 殿下のっ、殿下のあの様子を、御覧になっていたでしょうっ!?」

 ねぇ、待って。
 何を言っているの? あの様子って何?
 シャーロックが、あたしの大好きな人に何があったの?

 おかしいわよ、ジーク。だって、シャーロックはあたしが目を覚ました時、いつも海岸を散歩しているじゃない。あなたと、ロッドバルドと一緒に。
 今日だってほら、テラスから外を見れば……

「どうしてあんなことになったか、誰か教えてくれっ!!」

 きつくこぶしを固めて叫ぶジークから、そろそろと離れた。
 それからテラスにたどり着いて、いつものように外を、海を見ようとした。
 したのに、どうして……!?

「どうして俺はここにいるのか」

 窓の外には、緑しか広がっていないの……!?

「何故殿下の胸に短剣が刺さっていたのかっ」

 海は……、シャーロックはどこにいるのっ!?

「誰か、教えてくれ……っ!!」

 あまりにも信じられない状況に、頭がついていかないわ。
 だって、海が何処にもない。あたしの故郷が何処にも見えない。
 あたしの大好きなシャーロックですら、何処にも居ないの。

 どうして!
 どうしてあたしの好きなものがどこにもないの!?
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