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「Hazel amd Gray」
親愛なる蒼姫へ

03 現状

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「あのねぇ、二人して取り乱してどうすんのよ」

 呆れたような声。まるで砂糖を振り掛けたような、甘い可愛い声。
 こわごわと見上げた先には、一人の、女の子。
 侍女なんかじゃない。ふわふわのピンク色の髪を二つに結い上げて、レースやフリルたっぷりの丈の短い服を着た、たぶん、人間。

「オディール!」
「何よ、カエル男」

 でもその子はおかしいのよ。さっきまでここにいなかったのに、急に現れたの。
 しかも、戸棚の上に。
 人間って、あんなことできたかしら? 突然のことに驚いたけど、でもジークの知り合いみたいだし、そう警戒しなくても大丈夫なのかしら?

「心配してきてくれたのか! だが、今はそんなところにいるお前の方が心配だ!」
「だっ、誰があんたのことを心配してあげなくちゃいけないのよっ! そりゃまぁ……ちょっとくらいは心配してあげたけど」
「心配したのか! 嬉しいぞオディール! いや、それよりもそこから早く降りて来い。怪我したら大変だろう?」
「あたしを誰だと思ってんのよ!? これくらいで怪我なんかするはずないでしょ! いいから、さっさとそこどいて!」
「それもそうだな、ならば正直に言おう。俺が、お前を抱き止めたいんだ」
「ば、馬鹿! あんたの都合なんか知らないわよっ!」

 戸棚へと腕を広げて近づくジークに怒鳴りつける女の子は、オディールって名前なのかしら?
 顔を真っ赤にして、なんだか可愛いかも。
 戸惑いが徐々に落ち着いて、胸を押さえた。

 まだ痛いわ、ここ。
 シャーロックがいないって言うだけで、針が刺さったようにチクチクと痛むの。

「もう、さっさとどきなさいよ! あんたの大切な殿下とやらのことが知りたいんでしょっ!?」
「っ、それは、どういうこと……!?」

 ジークよりも先に、あたしは問い掛けた。
 だって、この子は知っているってことでしょう?
 あたしたちが知りたい、どうしてってことを。

「言葉通りよ。あんたたちが教えて欲しいって願ったから、一番真実を知っているあたしがここに召喚されたんでしょ?」
「真実を……」
「そうよ。ほら、あんたはさっさとそこどきなさい。それであたしのために美味しいお茶とお茶菓子を用意するのよ!」
「だが、お前を受け止めたい」
「よ、余計なこと言ってる暇あったら、さっさと動きなさい馬鹿!」

 顔を真っ赤にして叫ぶその子は、あたしが見ていることに気がつくと、きっとこっちを睨んでくる。

「あんたも、さっさとそこのテーブルに着きなさいよ! 笑ったりしたらただじゃおかないんだからねっ!」

 真っ赤な顔でそう言われても、怖くはないんだけれど。
 それでも、特に断る理由は見当たらないもの。
 あたしは素直に椅子に座った。

 痛む胸を押さえて、縋るような思いで、潮の香りを探しながら。
 ジークが持ってきた紅茶とクッキーを満足そうに頬張る、目の前の女の子。その子を優しい眼差しで見つめるジーク。
 まるで、シャーロックとその婚約者を見ているときの光景と同じで、それだけでツキリと胸が痛んだ。

「紹介が遅れたわね、あたしはオディール」
「私の愛しい妻です、姫」
「誰がよっ! 勘違いしないでちょうだい!」

 さらりと妻と言われて、噛み付くように否定するオディール。
 あぁ、あたしがもしシャーロックにそう紹介されたら、たとえおふざけの延長戦だとしても、幸せすぎて泣いてしまいそうなのに。

「いい? あたしは悪魔の娘のオディール!」
「悪魔の、娘?」

 どういうことかしら?
 悪魔の娘だなんて。オディールはどこからどう見ても人間じゃない。
 シャーロックに見せてもらった絵画にあったような、裂けた口でもないし、蝙蝠の翼も、とがった尻尾ですらないのに。

「そうよ、あんたが元人魚だったのと同じ。人魚がいたら悪魔だっているに決まってるでしょ?」
「は? 人魚?」
「あら、知らなかった? このお姫様、人魚の末姫よ。まだ微かにだけど、海の加護を感じない?」
「……いや、まったく」

 不思議そうに首をかしげたジークだったけど、そんなことよりも、どうしてオディールはあたしが人魚だったって、知ってるの?
 そんなあたしの心の疑問ですら見透かしているかのように、オディールは桜色の唇で、小さく弧を描く。

「悪魔の娘をなめないでちょうだい。そんなことくらい見れば分かるわ」
「そう、なの……?」
「えぇ、そうよ。あんたが人魚のときに王子に一目惚れしたことも、王子を追いかけるために人間になったことも、王子の幸せを願ったことも。全部お見通しよ」
「!」

 なんだか、改めて口に出して言われると恥ずかしいわね。
 赤くなるあたしを見て、小さく笑うオディール。それからジークは、どこか感心したように頷いていた。
 ……ジークは、シャーロックの側近だったから、あたしの気持ちくらいバレていたのかしら?

「姫が、そこまで殿下を想っていたとは……」
「……あんた、あたしとお姫様とじゃ全然態度違くない?」
「妬くなオディール、お前以外はだいたいこんな感じだ」
「誰も妬いてなんかないわよ! 自意識過剰!」

 そんなオディールを優しく見つめるジークからは、幸せオーラが放たれているように感じるわ。怒っていても、憎まれ口を叩かれても、幸せなのね。
 好きな相手からだったら、どんな反応をされても嬉しいものだもの。その瞳に映るだけでも、息が止まりそうなくらい嬉しい。それは、なんだか分かるわ。
 そんなジークはが、ふいとあたしの方へと向き直る。

「人魚から人間になるとは、大変だったでしょうに」
「いえ、ロッドバルドが支えになってくれたから」
「あいつが?」
「えぇ。あたしが立てるようになるまで……歩けるようになるまで、根気強く付き合ってくれたわ。彼には感謝しても、しきれないもの」

 そう、多忙なシャーロックに代わって、わたしに人間のしきたりを教えてくれたのはロッドバルド。シャーロックの側近の一人。
 人は服を着て、二本足で歩く。目上の人や位の高い人に出会ったときは慎ましく礼をし、そつがない挨拶を返す。テーブルマナーは特に気をつけなければならないけれど、あたしがどうしても魚料理が食べれないことに関しては、周りからさり気なく庇ってくれた。
 ロッドバルドがいなかったら、あたしはシャーロックに会うことも、話すことも、共に時間を過ごすことですら出来なかったかもしれない。
 だから、彼にはとても感謝しているわ。

「あー……そのことなんだけど」

 一ついい? と、強気なオディールにしては珍しくおずおずと言葉を挟んできた。
 なんだかバツが悪そうな顔。何かしら? そんなに言いにくいことでもあるの?

「単刀直入に言うわね」
「ん?」

 オディールはその大きな瞳を軽く伏せながらあたしを見上げて、それから、ジークの方を切なそうに見つめた。
 ゆっくりと肩で息をしたオディールは、顔を伏せながら呟いた。
 信じられないような、言葉を。


「王子を刺したのは、ロッドバルドよ」
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