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「零れ話」
幸運少女

そのろく。

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「来たか」

 ヴェルさんはゆっくりと屋敷がある方へと顔を向けた。
 来たって、誰が? って思いかけたけど、違う、少年を待ってたんだって。呼んだって言ってたもんね、話すのに夢中になって忘れかけてたけど。

 ヴェルさんに比べれば酷く小さく見える羽を動かしながら、少年は低滑空でふわりと四阿の近くへと降り立った。流れるようにヴェルさんの前に跪く。わあ、やっぱり偉い人じゃんかヴェルさん。どうするよって言ってもどうもしないけど。
 ふわふわの金色の髪。もちもちとしたほっぺに大きな青色の瞳。御人形さんみたいなほっそりした手足。うーん、小学生くらい? 可愛いが服着て飛んできた的な?
 ぱっと見た感じでは怪我とかはないようで、そのことにちょっぴり安心した。

「召喚に応じ、金糸級魔導師ラクディオルス、参上しました」
「楽にして良い、ここでまで畏まるな」
「っ、はい。ありがとうございます」

 わぁい、またよくわからない単語が出てきたぞー。きんしきゅうなんとか……だってさ。脳が覚えることを拒否したよ。暗記は受験とテストの時だけで充分ですー。
 ぺこりと頭を下げて立ち上がると、アタシの方へと向き直る。くしゃりと泣きそうに顔を歪め……ちょいちょいちょーい! 泣かない! 泣くのはストーップ!

「へいへいへい! 泣くのはズルいぞー! 涙ちょっと堪えようぜー!」
「……ごめんなさい」

 何故って? こっちの罪悪感が半端なく酷いからさ! 美少年に泣かれたら、アタシが全面的に悪かった! ってなるのは当然でしょう!
 犬だったらお腹出してひっくり返ってるよ!
 慌て出すアタシの反対側で、小さく吹き出した音が聞こえた。ヴェルさん、笑うなら全力で笑ってくれ。アタシも動揺してるんだ。

「ボクのせいで、ごめんなさい」

 ちゃんとごめんなさいが言えるのは良い子だ。そして、その雰囲気に押されてごめんなさいが言えない悪い子はアタシだ。アタシの方が全面的に悪いんだけどね! なんてったって爆発させちゃったもんね! 吹っ飛ばしちゃったもんね自分ごと!

「無事で、本当に、良かったです……」

 この子、メッチャ良い子だ! 知ってたけど!
 思わずばっと腕を広げて抱きしめ待ちの体勢をとったら、一拍遅れて少年本当に飛び込んできたよ。まじか!
 飛び込んできたってことは、抱きしめてもいいのかな? いいともー! ぎゅうぎゅうに抱きしめたら、ちょっと暖かくて細かった。でもってすごく小さかった。あとなんかちょっと良い匂いした。……あれなんか感想が変態臭い。
 心なしか、ヴェルさんの方から冷たい視線がとんできている気がする。いかんいかん、気を引き締めないと。

「キミこそ無事で良かった。本当に、怪我はない?」
「はい。ボクは大丈夫です」
「そっか……。うん、顔色も戻ったみたいだし無理はしてないね」

 顔をのぞき込んで確認しても、あんな死にそうな青白い顔色じゃなくて、ちゃんとバラ色の頬になってる。血の気が戻ってると言えばいいんだけど、可愛さ倍増していると言った方が適切だと思うのよ。なんだこれ、少年なのに女として負けてる気がする。ツラい……。
 アタシが顔色チェックをしていると、少年はゆっくりと照れくささを噛みしめるようにして笑って、甘えるように肩に顔を埋めた。
 なんだこれ可愛いな! 甘えたさんか!

「ラクディオルス、説明を」

 少年の可愛さにメロメロになっているアタシに呆れてか、ヴェルさんがそっと言葉を挟んだ。はっとしたように顔を上げた少年は、へにゃりと眉を下げてゆっくりとヴェルさんの方へと向き直る。ゆっくりと離れた腕の中が寂しいような……まあ、いいか。

「敷地内ですものね、やはり見透されていましたか……」
「彼女に私の保護を与えた。故に召喚事に関しては、私も無関係ではない。説明を聞かせて貰えるか、ラクディオルス」
「は、い」

 しょんぼりとした様子の少年は、ヴェルさんの言葉に驚いたような素振りを見せたものの、いけ好かない眼鏡の彼の時よりは好意的に頷いた。それでも、話しにくいことなのか躊躇する素振りは見られるけども。
 まあ隣にお座りよ、話はそれからだ。ぽんぽんと隣を叩いて座るように促すと、少年は気まずそうな雰囲気を発してたのに素直に座った。隣に座ってもアタシの胸くらいしか身重ないよ、そりゃ小さいわけだわ!

「ボク、は……」

 ぽつりと、少年がこぼした。

「ボクは、とても、身勝手な理由で召喚をしました」
「うん」

 怒らないから言ってご覧よ。大丈夫、ヴェルさんの勘だって言われた解答以上にゆるいのはないと思ってるから、どんとこい。

「ボクは、家族が欲しくて、家族を喚ぼうとしました」

 うん? 家族を喚ぼうとしたってことは、あれ、これアタシ完全に間違えられたパターン? お前はお呼びじゃないよ、と。
 軽いジャブを当てられた気になったアタシとは対象的に、ヴェルさんは緩やかに首を傾げていた。

「家族を? だが、確かラクディオルスの家族は、オルディナスの戦いで……」
「はい、ボクが物心つく前に戦死したと聞いています」

 おっとぉ。すごくディープな話題が来たぞ。ちょっと待ってよジョニー、平和生まれの戦争知らずな世代のアタシにそんな重たい話はよしてくれよ。反応に困るじゃないか。

「だからボクは、家族になれる人を、家族になれる素質がある人を条件に組み込んで、召喚術を試したんです」
「転移術ですら確立されていないというのに、召喚術を試みるとは……」
「だって、理論上は、いけるって分かってた。膨大な魔力が必要だって計算は出てたけど、それを補填できるような高濃度魔晶石が立て続けに発見された今なら、それを代用すればできる。文言だって組み立てられた。ボクならそれを唱えられる自信があった。だから、だから……!」
「成功できると、思い実行した。そして喚ばれたのが」
「アタシってわけですね」

 少年の言っていることが半分以上分からなかったんだけど、ヴェルさんが最後繋いでくれたのは分かったぞ。もっとこうシンプルに生きようぜ。家族が欲しいな! よっしゃ召喚したろ。でアタシ登場。あらなんて分かりやすい! むしろ説明なんてこれくらい簡潔で充分でしょ。
 自分の中で簡単にまとめて頷いていたら、少年は膝の上で強く拳を握りしめながらぽろぽろと涙をこぼしていた。

「世界を越えてくるような人だから、勝手に大丈夫だって思ってたんです。翼もないのに、魔力もないのに。あんな、あんな爆風に簡単に飛ばされて、叫んで、落ちていくだけだなんて。無力な人を、ボクの、ボクの身勝手で、死んじゃったんじゃないかって……」
「大丈夫、アタシ生きてるし。無事だし」
「でも、この世界では、無力な貴女は、とても生きにくい」

 うーん、なんていうか。ちょっとカチンとくると言うか。
 アタシが無力だから悔やんでいるというか、それだけのごめんなさいの涙だよねコレ。

「ラクディオルス」
「あ、アタシが言います」

 そのニュアンスはヴェルさんも分かってるみたいで、少し怒った顔で少年を見ていた。怒った顔も美人さんってズルくない?
 うん、まあ、言いたいことは一緒だろうけど。当事者たるアタシから言った方が良いよね。足りなかったり違ったりしたら、ヴェルさんフォローよろしく!

「あのね、キツいこと言うけど最後まで聞いてね」
「は、い?」
「アタシ自身は、望んでここに来たわけじゃないの」
「……え?」

 大きな目を更に丸く見開いて、少年は止まった。

「選択できたわけでも、前兆があったわけでもなくて、ただ気付いたらあそこにいた。それだけ。だから、今自分が居た場所がどうなってるのか分からないし、急に消えたアタシを心配している人がいるかもしれない」

 主に家族とか。少年の家族は戦死したってさっき言ってたから、言葉にしては言わないけど。数少ない友達も、後輩も、バイト先の仲間たちも心配はしてくれる……だろうと思いたい。
 あと本当に、急に喚ばれたものだから、マジで外見整えたい。せめて服くらいまともな服に代えたいなあ! スウェットからいい加減脱したいなぁ!

「だから、この世界にどう言われたって全然ピンとこない。そもそも、アタシがいた場所には翼生えてる人なんか一人もいなかったし、魔法なんて物語の世界の出来事。そんなものに罪悪感覚えて謝られても、全然意味分からないって感じ」
「っ、ごめ、なさ……!」
「うん、見当違いのごめんなさいの意味分かった? 分かれば良いんだ。ついでに、アタシも爆発起こして、巻き込んでゴメンナサイ」

 よしよし、どさくさに紛れてアタシの分のゴメンねも言えたぞう。少年はそれどころじゃないみたいだけどね!
 あーあー、涙で顔ぐしゃぐしゃになってらぁ。鼻水まで出てるぞー。ハンカチなんか持ってないからね、部屋着でまで持ち歩く習慣はないわ。袖でも良いかな、ぐりぐりと乱暴に目元を擦って笑ってやった。

「家族でも友達でもなんでもいいや。困ったら助けられる範囲で助け合おうよ、ってことでアタシを助けてよ。一方的に依存するんじゃなくてさ、手を貸し合える存在はどんな関係でもありでしょ。嫌になったら距離置けば良いし、絶交することもあるかもしれない。でも互いを知らなきゃ始まらないでしょ」

 なんというか、本当に不器用な子だよね。世界を越えて喚ぶような案件じゃないぞ。
 そのやり方が分からないのなら、アタシなりのやり方で、仲良くしましょうってやるしかないんだけどさ。いや、この年になってお友達になりませんかってちょっと、気恥ずかしいじゃん?
 あふれ出てくる涙をそのままに、少年は伺うようにアタシを見上げてくる。そんなおそるおそるしなくてもいいのに。簡単なことなんだよ、本当は。アタシみたいに、簡単でいいんだよ。

「アタシなんかポンポン好き勝手言うから、その分思ったことぶちまけてよ。無理なら無理って言ってね、そしたらまた別の方法考えるからさ。そんな緩い感じでもいいじゃない。そんな関係でもいいじゃない。ダメ?」
「ダメ、じゃ、ない……!」
「じゃ、オッケーって事で。アタシ、スズって言うの。キミの名前は?」
「ラクディオルスです。ラックって呼ばれてます」
「ラック、幸運ね。覚えやすい良い名前じゃない」

 ヴェルさんが何回も繰り返して言ってたけど、覚えられる気がしなくてさ! いやぁ短い名前に出来るっていいね!
 しかも意味がある単語になるんだよ。ラックは幸運って意味だったはず! スペルは分からないけど!

 うんうん、と頷くついでにラックの頭をぐしゃぐしゃとかき回した。

「アタシ、昔から運だけは良いのよ」

 だから、この出会いも出来事も全部そう悪くない……むしろ、幸運だったりして。
 そう茶化して笑うと、ラックもようやく涙の残る顔でふわりと笑った。

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