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「Hazel amd Gray」
親愛なる蒼姫へ

06 三通目

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 親愛なる蒼姫へ

 贈物は、気に入って頂けただろうか。
 彼等はきっと、貴女の心の慰みになるだろう。
 未だ貴女の前に姿を現す事ができない私からの、ほんの些細な贈物だが、貴女が気に入って下さったのなら、これ以上に嬉しいことはない。
 この贈物を受け取ったとき、貴女は笑っていたのだろうか。
 その笑顔が眩しすぎて、私は影でそっと眺めていることしか出来ないだろうが、貴女の笑顔はこの荒んだ心でさえ癒される。
 無遠慮な娘と、気遣いも出来ぬ粗野な男しか側に置けませんが、これも貴女方を護るため。鳥かごの中の姫君としてしまうことを、どうかお許しください。
 きっと貴女は、真実を知ってしまったら、本来の運命を望むだろう。
 私はそれを望まない。それをされてしまったら、私の心は修復が出来なくなる程粉々に割れてしまうだろう。
 貴女を失う事が、何よりも怖い臆病者なのだから。
 我が愛しき海の姫よ、どうか忘れないでおくれ。
 貴女を失いたいとは思わない者が、ここにもいることを。
 真実に目隠しをしたままの貴女に、私が責められない資格はない。
 貴女が真実を知っても、元の運命を選ばなくなるその時まで、私は貴女の恨みを買い続けよう。
 貴女に愛されたいと思うも、恨まれれば恨まれるほどに、私のことを想ってくださるのなら、それでかまわないと思うのだから。
 私は貴女の哀れな恋の奴隷。
 貴女が消える運命を選ばなくなるその日まで。
 貴女が私を。私が貴女を。

 解放する時は来ないでしょう。


 青い、色。潮の香り。
 手には硬質のナイフ。それを汗ばむ手でぎゅっと握りしめる。
 心臓が煩く鳴り響く。どくん、どくん、と。胸を内側から叩くそれは、回数を重ねるごとに感覚が狭まる。

 打ち寄せる波音が、妙に気持ちをあせらせる。
 まるで、早く戻っておいでよと。海へ戻っておいでよとそう言っているかのよう。
 頭の中に響く心音。
 どうしてか呼吸がうまくできなくて、とても息苦しい。どれだけ息を吸い込んでも、息を吸い込んでいる感覚がしないの。
 波打ち際に打ち上げられていた魚たちも、こんな感覚だったのかしら、なんて。息苦しさに喉元を抑えながらも、頭の中ではそんなことを思っていた。

 苦しい。苦しい。苦しい。
 助けて。
 助けて、シャーロック。
 苦しいの、息ができなくて、苦しいの。

 ……本当に?

 胸が痛い。しくしくと痛むの。のどがひきつって、上手く呼吸ができないの。どうしてか、こんなにも目頭が熱いの。頬を、水が伝い落ちていくの。
 あなたに出会った時よりも、もっともっと。
 ずっとずっと苦しいの。
 ねぇ、お願いよシャーロック。
 助けて。苦しいの。痛いの、こんなにも、胸が痛いの。
 海の存在だけじゃ、決して癒されないの。あなたにしか、癒せないの。
 この潮の香りだけじゃ……。

 潮の、香り……?

 本当に、それだけ?
 これは、何? 顔をしかめてしまいたくなる、異臭。鉄の、臭い。
 目に映るのは、青? 本当に?
 あなたが好きだと言った、青色?

 それは、本当?

 この手を染めているこれは、海の色?
 これは。
 こんなにも苦しいのは?
 この目に映るのは!?
 ねぇ、あたしは……!


―…蒼ノ姫ヨ。今ハ、忘レテシマイナサイ。

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