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「Hazel amd Gray」
親愛なる蒼姫へ

07 破門

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「お姫様―こっちだよこっちー!」
「待って、ピーター。さぁ、マリーもクレアも一緒に行きましょう?」
「うん! お姫様もマリーたちと一緒だよ」

 両の手で小さな手と繋いで、あたしは笑いながら駆けて行く。高い声がいくつも重なってできる笑いの渦。巻き込まれた笑顔。
 それらの真ん中で、あたしは笑っていたの。

 そう、笑って。

 この子たちに悲しい顔を見せたくない。垢や汚れを落として綺麗になったこの子たちに、不安を覚えさせたくなかったの。
 だって、人間は水の中にいないから、毎日お風呂に入って汚れを落とさなくちゃいけないと教わったんだもの。それなのに、この子たちは汚れでいっぱいだった。

「ちょっとぉっ! アタシに水を掛けないでちょうだいっ! アンタたちの倍の時間かけて手入れしてんだからっ……て、言った傍から水を掛けるなー!」

 どこかやけになったオディールと一緒に、この子たちの汚れを何回も落としてあげたわ。何度も何度もお風呂に入った。
 それから、おなか一杯の食事を作ったわ。くぅくぅなるお腹の虫の主張が可愛くて、慣れないながらもジークとに手伝ってもらいながら。

「野営食しかできないのですが……それでもいいなら大量にお作りし……、おぉ?お かわりか? よしっ、たくさん食べて大きくなれよ!」

 ……ジークはいい旦那様になりそうね。と呟いたら、ジークは嬉しそうにオディールを振り返った。オディールは、ば、馬鹿じゃないの? とか言いながらそっぽを向いていた。なんだか可愛い。
 それでも、一生懸命に食べてくれる姿を見ると、あたしでもこの子たちにしてあげられることがあるって、なんだか嬉しかった。
 中には涙を流しながら食べている子もいて、絶対、飢えさせることなんかさせないと強く胸に誓った。

 触れ合えば触れ合うほど、この子たちのことを知りたくなる。
 どうして、あんなみすぼらしい恰好をしていたの?
 どうすれば、この子たちが笑っていられる?
 どうして、この子たちはここに来たの?
 どうすれば、この子たちにお腹いっぱい食べさせてあげれる?
 どうして、この子たちは泣いたの?
 ねぇ、シャーロックあなたなら、どうしたかしら? あなたならどう対処したかしら?

「ねぇ、ジーク」
「どうなさいましたか、姫」
「あの子たちは、今までどんな暮らしをしてきたのかしら?」

 シャーロックは、まずジークやロッドバルトに相談をしていた。時には一人で決めてしまうこともあったけれど。
 ジークは、どこか躊躇するそぶりを見せて、オディールを見つめた。オディールは渋い顔をして、小さく舌打ちをしていた。

「ジーク? オディール?」

 先を促すと、二人は渋々と言った様子で、重い口を開いた。

「その、あの子どもらは、先の戦争で孤児になった子らかと」
「孤児?」
「えぇ、親を戦争で亡くし、庇護される相手を無くした子らのことをそう言います」

 だから、あんな薄い肌着に汚れたままの姿でいたということ?
 だから、あの時辛い仕事を押し付けられたりしないとか、そんなことを言ったの?
 ジークは、戦争の第一人者として戦場に赴いていた。だから、そんなに自分を責めるような顔をしているの?
 オディールが、続ける。

「それであの子たちは、ロッドバルトがアンタを繋ぎとめるために、ここに連れてきたんだと思うわ」

 現に、アンタあの子たちを見捨てることなんてできないでしょ?
 そう続けられて、あたしは反論ですらできなくて、口を閉ざした。

 波紋が、広がる。

 シャーロックが婚約者のために起こした戦争が、あたしが引き起こしてしまった出来事が、二つの波紋を描いている。そのぶつかった場所に、あの子たちは巻き込まれただけ。
 なんの罪もない子たちなのに。
 あんなに無垢な瞳をしているのに。
 あたしたちの身勝手に巻き込まれて、人生を狂わされてしまった。あたしが望んで運命を捻じ曲げたのとは違って、他人から、他でもないあたしたちのせいで捻じ曲げられてしまったのね。
 なんて、取り返しのつかないことをしてしまったの。

「あたし、は……!」

 同じ過ちを繰り返そうとしているの?
 また、罪を犯してしまおうとしているの?

「また……?」

 自分の中に浮かんできた思いが、どうして?を増やす。何故?が際限なく増えていく。待って、どうして? そんなこと、許されるはずないのに。
 あたしは、再び……?
 再び何をしてしまおうとしているの? 前に、何か、あたしは罪を、犯した……?

「蒼の姫よ。忘れてしまえと、私は言ったでしょう」

 さぁ、忘却の海へと旅立ってしまいなさい。
 ふと意識を奪われて視界が真っ白になる。

「ロッドバルト、アンタ……!」

 オディールの憤った声が、最後に聞こえたような気がした。
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